コラム

2022.08.05

海棲哺乳類のテロメアに関する研究に協力しています

水族館は、多彩ないきものの生きる姿を間近に感じていただける場所です。水族館のいきものたちは、来館するみなさまにワクワクする気持ちや、ほっとする気持ち、いのちの大切さを思うきっかけを与えるだけでなく、様々な研究に役立てられています。

このコラムでは、水族館が協力する研究の1つをご紹介します。

テロメアとは…?


染色体末端にあるテロメア


テロメアとは、いきものの染色体末端にある、特定の塩基のならびの繰り返しです。脊椎動物においてこの配列はほぼ共通している一方で、種によって長さが異なるとされています。‌
テロメアの長さは主に二つの要因により、短縮することが知られています。1つ目は、細胞分裂をくりかえすたびに短くなること。ヒトを含む様々な動物種において、テロメアが加齢とともに短縮することがわかっています。‌
2つ目の要因は、酸化によるダメージです。動物が環境変化や生理状態などのストレスにさらされると、体内で酸化力の高い物質がつくられ、その物質がテロメアにダメージを与えることで短縮が進行すると考えられています。そこで、テロメア長を測ることによって、動物のストレスの評価に利用できるのではないかと期待されています。‌

水族館のいきものだからできること


ミナミアメリカオットセイの検査


しかし、イルカやアザラシ、オットセイなど海に棲む哺乳類の多くは、サンプルをとるのが難しく、そもそものテロメア長がわかっていません。‌
また、テロメア長に影響を与える年齢やストレスとの関係も未だ解明されていません。‌
京都大学東南アジア地域研究研究所・農学研究科では、これらを解明すべく海棲哺乳類のテロメアと酸化ストレスについて研究がすすめられています。‌
より多くの個体から継続的にDNAを抽出し、テロメア長を計測することにより、それぞれの個体や種のテロメア長と、年齢や酸化ストレスがその長さに影響をおよぼすのか、調べています。‌
当館のゴマフアザラシ、ハンドウイルカ、ミナミアメリカオットセイも定期健診の採血から余剰分の血液を提供し、他園館とともに京都大学の研究に協力をしています。‌

水族館のいきものと、ともに長く暮らすために


ハンドウイルカの検査


野生下のいきものからDNAを継続的に抽出するのはとても難しいことです。生活する条件は野生下のいきものと異なりますが、水族館のいきものは、同じ条件のもとで継続的に観察することができます。‌
まだまだ解明されていないいきものの生態を研究すること、研究や調査に協力することも、水族館の大切な役割の1つです。‌
テロメア長の研究が明らかになることで、飼育下のいきもののストレスを把握できる可能性もあり、いきものの保全や環境改善に役立てることができるかもしれません。‌
水族館のいきものは社会の財産であり、いきものから得られた学びは、いきものに還元することが大切だと私たちは考えています。‌

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